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   田中章夫先生(元学習院大学教授・元国立国語研究所 研究室長)より

              日本語学論説資料の推薦文をご寄稿いただきました。

 

           日本語研究の伴侶―『日本語学論説資料』

 

 戦後二十年、昭和四十年代を迎えるころ、それまでは、あまり恵まれてこなかった国語国文学

界にも、学科の創設・増設があいつぎ、おびただしい数の学会誌・研究誌・研究紀要の類の創刊

・増刊が続いた。それは好ましいことには違いないが、大学・研究所の研究室も図書室も、その

整理に大童という状況だった。特に、教育学部・教養学部・外国語学部などの紀要類となると、

国語国文学とは縁遠い、哲学・物理学・西洋史から・体育学・広東語・ヘブライ語などの論考の

中に、国語国文学の論文が二つ三つということになる。短大の研究誌では、家政・服飾・保健な

どの論の中に、工業高専のには、当然のことながら理工系の論と同居している。その上、この種

のものの多くは、執筆者自身からの寄贈なので、定期刊行物として扱えない。国立国語研究所の

図書室の係が、大学などに問い合わせたところ、「一定期間展示後廃棄」「お持ち帰り自由」扱

いが多かったという。しかし、これはなんとしてもモッタイナイ! 掲載論文の多くが、若手研

究者の手になるもので、処女論文も少なくない。研究室が苦労して手に入れた、貴重な資料の紹

介や、老大家の業績紹介も見られる。

 

 その散逸を憂慮して、当時、国立国語研究所におられた、宮島達夫・徳川宗賢の両氏が、中国

語研究など、中国関係の研究誌の論文を集めた『中国関係論説資料』の編集・刊行を手がけてお

られた、「北辰」社の向坂正一氏に、国語学関係の「論説資料」作成の相談を持ちかけた。学界

の落ち穂拾いのようなもので、どう考えても採算が取れるものとは思えない。にもかかわらず、

とにかく“ヤッテミヨウ”ということになったそうである。幸いなことに、国語関係の話題や論

文については、国立国語研究所の『国語年鑑』に随筆・随想の類まで、題名・掲載誌名・ページ

などが網羅的に集められている。その上、掲載誌のほとんどは、研究所の書庫に収納されている。

したがって、中国語関係に比べて、資料収集の労力・費用・期間が大幅に軽減される、この点が、

一つの決め手になった由である。

 しかし、大きな問題は、原文の執筆者に、転載の許可を得ることである。各種の「〜論説資料」

なるものが版を重ね、その性格が周知されていれば、ともかく、先輩の「中国関係〜」が出たば

かりの頃である。国語畑の人々に「論説資料」への掲載を持ちかけても、すんなりと、お許しを

いただけるとは、とても考えられない。そこで、『国語学論説資料』発刊の意義と、転載許可へ

の協力を依頼する文書に、当時の国語学会理事(現・旧)の、つぎの先生方のお名前を連ねて、

 今泉忠義・岩淵悦太郎・佐藤喜代治・中田祝夫・浜田敦・平山輝男・藤原与一・松村明

転載許可の依頼状を発送した。

ほとんどの方から、許可をもらえたが、当初は数人の執筆者から「不許可」の返信があった。

 

 創刊当時の編集には、宮地裕・宮島達夫・徳川宗賢の三氏が携わり、第二号から、宮地氏の大

阪大学教授就任に伴い、田中章夫に代わり、しばらくは、宮島・徳川・田中の三人体制が続いた

が、その後は在京の研究者が、次々に参加し延べ数十人が、全くの手弁当で編集に当たってきた。

 本年刊行の第51号で、半世紀超えとなるわけだが、当初は『国語年鑑』の文献カードに基づい

て、後には国立国語研究所のデータベースを資料にして、国語国文学の専門誌や専門研究機関の

論集・研究報告所載のものを除いて掲載候補を選び出して、スペースの許す限り採用していった。

 1990年刊行の第25号からタイトルを『日本語学論説資料』に改め、この間、「北辰」社の方も、

向坂正一氏のご逝去のあとを継いだ、美和子夫人も亡くなり、現在、福岡在住のご子息・向坂成

夫さんが継いでおられるが、東京の論説資料保存会の実務は常盤浩行氏によって運営されている。

 特筆すべきは、1990年代に、向坂成夫氏・常盤浩行氏の手で進められた『日本語学論説資料』

の電子化の動きである。1992年に筑波大学で開催された国語学会春季大会で、『フロッピー版・

国語学日本語学論説資料索引』の、1999年に名古屋大学で開かれた国語学会秋季大会では、

『CD−ROM版・日本語学論説資料索引』のデモンストレーションを開催し、その後も数年にわた

って、日本語学会の会場で、デモンストレーションを繰り返した。

 さらに、2003年には、荻野綱男氏・真田信治氏・熊谷康雄氏・中野洋氏の手で、『CD-ROM版・

計量日本語学集成』の刊行を見た。

 以上、『国語学論説資料』の誕生から『日本語学論説資料・第51号』への、半世紀を超える足

跡を、大急ぎで振り返ってみたが、「北辰」社と「論説資料」については、2009年9月号の『国

文学・解釈と鑑賞』誌に、特別寄稿「『論説資料』の思い出(宮島達夫・田中章夫)」がある。

くわしくは、そちらを参照されたい。

 


                                    論説資料保存会

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